朝倉慶「株はもう下がらない」から市場経済の潮流を俯瞰する

書籍「株はもう下がらない―誰も止められない世界的金融インフレの暴走」(朝倉慶 著、ビジネス社 刊)における、経済評論家の朝倉慶氏の市場動向の考察を題材に、今後起こりうるビジネス環境の変化を整理していきます。同氏が一貫して訴える大きなテーマが、世界的な金融インフレ時代の到来が不可避という点です。その点を実感される経営者やビジネスパーソンの方々も多いのではないでしょうか。

本書では、政治による経済への介入が限定的なこれまでの新自由主義が崩壊し、国家が市場に介入する大きな構造変化が起こっており、時代に取り残されないためにこの変化への適応が不可欠としています。この現状を詳細にトレースした本書は、ビジネスパーソン(特に経営者やマネジメント層)の皆様にとって示唆に富んだ内容となっています。是非本書のご一読をお薦めいたします。

本書が示唆する市場経済の潮流について、要点を下記に整理しました。

日本市場の現状と未来予測

(1)インフレ、株高

  • 金融インフレ構造が定着化し、物価がさらに上昇していく
  • 高圧経済で現金の価値が低下し、財政が拡大し続ける
  • 中期的(1〜3年)には横浜やさいたま、長期的(3〜7年)には地方都市も含めて家賃インフレが定着する
  • 賃金は上昇するが、物価の上昇が圧倒的に早い
  • 資産を持つ人と持たない人の格差が開く
  • 米国市場のマネーが日本に流入している

(2)円安

  • 日本国家の信用が落ち円安が止まらない
  • 政府の市場への影響が強まる(例:為替介入等で市場への関与が可能との日銀の認識も強い)

(3)金利高

  • 名目金利は上昇するが、実質金利はマイナス幅を拡大させる
    ※実質金利:名目金利から物価上昇率(インフレ率)を引いた金利

世界市場の現状と未来予測

  • 財政・通貨に対する懸念が強く資金がマネーから逃避している
  • 金融資産は投資先に「安定・治安・技術・地政学的優位」を兼ねた国を探す(日本は投資先として優位
  • 2026年にはドイツ、インドに抜かれ日本のGDPは世界第5位まで落ちる
  • 株式市場は経済の結果ではなく政策の主戦場に変質している
  • AIも量子コンピューターも国策のため暴落は政府が許さない(広義に株式市場は暴落しない
  • 暴落ではなく、止められない市場の暴騰による破壊が起こる

日本人の生存戦略

  • 現金を減らし、株、不動産、コモディティなどの資産に変える
  • 日本国民は原油やガソリンなど資源を節約する必要がある
  • エネルギーがない、少子化で労働力がない日本人は必死で働くしかない

経営者として理解しておくべきポイント

  • 値上げが許容されやすくなり企業収益が伸びる = インフレ対応(価格転嫁)に乗り遅れると経営の致命傷となり得る
  • 賃金が上昇し、一度上がり始めた賃金は下がらない(名目売上だけでなくコストも増加するため財務管理は重要
  • 供給力を強化し、危機感を持ちスピーディーに対応する
  • 競争の中で責任を引き受け国家を支える側となる

朝倉慶氏は、低金利や補助金に依存する現在の日本は、社会主義的資本主義国家の状態にあると指摘しています。アダム・スミスの「国富論」カール・マルクスの「資本論」においても示されているように、価値創造の源泉は勤労であるという事実は資本主義の大原則です。

朝倉慶氏は、現在の日本の状況においては大規模な所得減税を実施すべきとしています。労働による実質的な価値創出に連動した税制がなければ国家の成長はあり得ないことは、日本の将来を担うビジネスパーソン(特に経営者やマネジメント層)の皆様は既に認識されているのではないでしょうか。日本が低成長を脱し再び成長力を取り戻すためには、社会保障制度の充実に加え、努力や挑戦が正当に評価される社会であることが重要です。

新たな価値創出に取り組むビジネスパーソンの皆様には、現在そして将来の市場を俯瞰するための一助となる本書のご一読をお薦めいたします。
※なお、当記事は投資助言ではなく、朝倉慶氏の考察の紹介として執筆しています。ご参考までにお読みください。

(当記事執筆者:辻中 玲

ビジネス力を強化するコラム一覧