「易(易経)」は中国の古典で、人が難しい判断を迫られた際の基準として古代より重宝されてきました。「易」を構成する概念には、無、陰陽、四象、八卦、そして六十四卦があり、この六十四卦という64種類の図象で万物を表現します。この法則性により政治をはじめ様々な場面で重要な判断がされてきました。それぞれの説明は、wikipediaの易、四象、八卦、六十四卦(周易上経三十卦)(周易下経三十四卦)、六十四卦(中国)にありますので、ここでは「易」の原則とビジネスでの決断を助ける易の要諦を紹介します。決断をする機会の多いビジネスパーソン(特に経営層、管理職、マネジメント職)の方には、日常的な決断時の指針になることは間違いありません。
「易」には下記のような原則があります。
- 天地の徳(立派であること)は智(賢いこと)と、仁(思いやりのあること)
- 天地の作用は無為の(意図的でない)変化
- 四つの徳は、元(=仁、人を思いやること)・享(=礼、敬うこと)・利(=義、正しいこと)・貞(=智、賢いこと)
- 自分に勝つ道とは礼(敬うこと)の実践
「易」は下記のような価値観を示しています。
- すべてのものは相対する二つの要素(陰陽)で成立している
- 行ったものは必ず帰り、来たものは必ず行く(一陽来復)
- 重要な場面は拡充(良くなっていく時)の中でも、特に復帰の時(好転する時)にある
- 良い時は浮かれず心配し、悪い時は憎まず卑屈にならないのが良い
- 正しいことに増して中心にいる(偏らず調和が取れている)ことが重要(中庸)
- 上は施しを与え下は従順なのが正しい処世法である
- 邪は正に勝たない
- 善行には吉の、悪行には凶の報いがある
- 天道に従う者と誠実な者は助けられる
- 功績を上げながらへりくだるのは優れた者
- 徳のある人は物事は険しいことを知り用心して慎む
- 一人で行けば必ず相手ができる
- わかりやすいのは良いこと
- 不易(変わらないもの)と変易(変わるもの)を知ることは身を助ける
他者を敬い賢く生きるための哲学を説いた「易」は、人間社会に生きる処世術として儒学を学んできた日本人にも大いに重宝してきたようです。特に「一陽来復」という語は易の哲学の要諦とも言えるほど重要です。一陽来復は冬至の別名でもあり、厳しい時期が続いた後には必ず物事が良い方向に向かうという自然の摂理を表しています。目的が政治であれビジネスであれ「易」の陰陽哲学に応じて決断することは、理にかなっているといえるのではないでしょうか。
さて、身近なところでは、韓国旗のデザインは「易」の哲学そのものを表現しています。中央の赤と青の陰陽が全ての物事の始まりである混沌を表し、周囲の線は八卦の中から、左上から順に天・水・地・火を表しています。韓国や北朝鮮は元は清(中国)の属国、朝鮮として誕生したため、韓国も北朝鮮もルーツは東洋哲学の「易」にあることが分かります。
「易」では、水は陰や地また女性を表し、火は陽や天また男性を象徴します。水と火は上手く活用すると生命の維持のための調理ができますが、火に水が直接かかると火は消えてしまいます。「易」では水と火をバランスさせることを「中庸の徳」として最重要視しています。この思想が東洋文化の根本にあるため、アジアの一国である日本にも「正道を歩む」や「当を得る」など「易」の哲学を受け継いだ言葉や文化が多く根付いています。また、東京都新宿区にある穴八幡宮には、金銀融通の御守で有名な「一陽来復御守」を求め、経営者をはじめとした多くの人々が訪れています。
余談ですが「日本資本主義の父」と称される「論語と算盤」の著者である渋沢栄一は、東洋の「仁」の意味するところは西洋の「愛」の意味するところとほとんど同じであるとしています。ビジネスにおける決断の助けとなる「仁」や「愛」(慈愛)という哲学を知ることは経営者にとって最も重要です。
日本人の文化のルーツを垣間見ることができる「易」を手に取ってみてはいかがでしょうか。より詳しく知りたい方には「易」の全体像を詳細に解説した「易」(本田濟 著・朝日新聞社 刊)という書籍をおすすめします。書籍の詳細は下記の表紙画像をクリックしてご覧いただけます。
(当記事執筆者:辻中 玲)