「聖書」は世界一発行されている書物ともされており、神と人間との関わり合いの歴史について描く文書で、ユダヤ教とキリスト教の正典「旧約聖書」、正教会やカトリック教会の正典「旧約聖書続編」、キリスト教の正典「新約聖書」が含まれています。 ちなみに「マネジメント」の著者であるピーター・F・ドラッカーの数々の著書や、「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの著者であるジム・コリンズの著書にも聖書に基づいた記述が数多く登場します。聖書の価値観が世界的なビジネスシンカーの思考のバックボーンとなっていることから、聖書が現代のビジネスを考える際に最も重要な価値観の一面を示しているといえるのではないでしょうか。 また、聖書の世界はシェイクスピアやダヴィンチをはじめ多くの文学や芸術のモチーフとなっています。特にクリエイティブワークを業とする方にとっては、歴史的な作品の背景となっている価値観に触れることは非常に重要です。また、聖書を自己啓発に活用することで、長い歴史に裏付けられた知恵と教訓が、ビジネスにおける重要な意思決定をする際の支えとなってくれるかもしれません。 しかし、壮大な内容で構成される聖書は、その文章量も一般的な日本語版でも約2,500ページと多く、読了することに読書スピードの速い人でも1年以上かかるといわれています。誰もがすぐに聖書の価値観の恩恵に預かれるわけではなさそうですが、今回は聖書の内容をざっと要約して紹介しますので、興味を持った物語を調べるなどしてビジネスのヒントを探してみてはいかがでしょうか。 ここでは「聖書」の全体像と価値観に触れていただくために、それぞれの内容を要約、関連する画像、引用(「聖書 旧約聖書続編つき 新共同訳」日本聖書協会 刊)によって紹介します。文章中にWikipediaへのリンクを貼ってありますので合わせてご参照ください。 旧約聖書 「旧約聖書」は下記で構成されています。 創世記:神の天地創造、アダムとイブ、ノアの方舟などの記述を含む。アブラハム(信仰の父と呼ばれる。イシュマエルとイサクという息子がおり、イサクを神に捧げようとしたその決意が神に信仰を示した)、イサク(エサウとヤコブという双子の息子がおり、ヤコブは兄エサウを出し抜いて長子の祝福を得、ユダヤ人の祖として後に国名ともなる「イスラエル」の名を得た)などが登場する。出エジプト記:モーセの十戒を含む。モーセが、虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語。レビ記:内容は律法の種々の細則が大部分を占めている。民数記:イスラエルの民の人口調査に関する内容。申命記:説話。死を前にしたモーセがモアブの荒れ野で民に対して行った3つの説話をまとめた内容。ここまでがモーセ五書と呼ばれる。ヨシュア記:モーセの後継者、ヨシュアの指導の下、イスラエル人がカナンに住む諸民族を武力で制圧し、約束の地を征服していく歴史記述。士師記:ヨシュアの死後、サムエルの登場に至るまでのイスラエル人の歴史記述。他民族の侵略を受けたイスラエル人を「士師」と呼ばれる歴代の英雄達が救済する内容。ルツ記:寡婦となった後も義母の側にいることを望んだモアブ人女性ルツの物語。ルツはその誠実さの結果ダビデの祖先に名を連ねることになった。ミレーの絵画「落穂拾い」のモチーフである。サムエル記上,下:中央集権国家形成の歴史。ダビデとゴリアテ、サウルとダビデ、ダビデとバト・シェバ(ウリヤの妻、ソロモンの母) 他が登場するイスラエル史。列王記上,下:ソロモンへの王位継承、エルサレム神殿と宮殿の建築、エルサレム没落までの記述。歴代誌上,下:「サムエル記」「列王記」をもとにしてイスラエルの歴史を再構成した内容。神殿についての記述や職制の人名リストが多い。エズラ記:バビロン捕囚となった民の解放後の歴史記述。エルサレムに派遣された律法の書記官で、律法によってユダヤ民族をまとめなおそうとした人物エズラに由来。ネヘミヤ記:ユダヤ人共同体の再建のための「ネヘミヤの事跡」「律法の公布」等。ネヘミヤは厳しく様々な問題に取り組み、宗教上の改革や社会の改革を行ったとされる。エステル記:ペルシャの王クセルクセスの后となったモルデカイの養女でユダヤ人女性エステルの知恵と活躍を描く。エステルの勇気ある行動により、ユダヤ人を皆殺しにすべく陰謀をめぐらせていた権力者ハマンが処刑された。これをきっかけにユダヤ人の解放を祝うユダヤ教の祭りプーリームが成立した。ヨブ記:正しい人に悪い事が起きる「義人の苦難」を扱う書。サタンに無償の信仰及び無償の愛を否定され、苦難に襲われたヨブは「わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」(ヨブ 2:10)と語った。詩編:150篇の神(ヤハウェ)への賛美の詩。その多くがダビデの作であるとされている。箴言:内容は教訓の集合で、様々な徳や不徳とその結果、日常における知恵や忠告等。その多くはソロモン王の作とされる。コヘレトの言葉:普遍的な疑問への哲学的考察がなされた思想書で著者はソロモン王とされる。「神を畏れ、その戒めを守れ。」(コヘ 12:13 )と説く。雅歌:男女の恋の歌であり、恋愛と男女の賛美を歌い上げる詩。ソロモン王の作とされる。イザヤ書:イザヤによる預言書。ユダ国民が偶像礼拝からバビロン捕囚となると予言。「希望と救いと慰め」の預言を含んだ内容。エレミヤ書:エレミヤによる予言書。神に従わないイスラエル人がバビロンによって滅ぼされる事を預言する内容。哀歌:紀元前586年におきたエルサレムの陥落とエルサレム神殿の破壊を嘆くエレミヤによる5つの哀歌。バビロン捕囚の時代に作られたものとされる。エゼキエル書:預言者エゼキエルの著。神の怒りにより陥落したエルサレム、バビロンに捕囚されたイスラエル人に関する記述。悔い改めの希望も書かれている。ダニエル書:ネブカドネツァル2世に重用された賢者ダニエルの身に起こったことや幻視で構成される。ホセア書:偶像崇拝をしたイスラエルに対する裁きとして、神がイスラエルを見放す事にされたという内容。ヨエル書:ヨエルの著とされる。ユダの地を襲った大災害に神の裁きの予兆をみ、悔い改めを勧める内容。アモス書:アモスの著とされるイスラエル王国に対する神の裁きの宣告とイスラエルの支配者たちへの悔い改めの要求。裁きについての5つの幻(イナゴ、燃える火、重り縄、夏の果物、祭壇の傍らの主)、結びにダビデの系統を引くイスラエル人の回復が語られる。オバデヤ書:オバデヤの著とされる。「エドムの傲慢と滅亡」と「イスラエルの回復」の予言書。ヨナ書:滅ぼされると予言されたアッシリアの首都ニネヴェの人々の悔い改めと断食により、神がニネヴェの破壊を中止したとする内容。嵐に遭遇した預言者ヨナが大きな魚に飲まれる話が含まれる。ミカ書:預言者ミカの著とされる。支配階級に抑圧されている人たちの苦しみに共感し、不正を行う者に神の裁きと滅びが近づいていることを語る。ナホム書:預言者ナホムの著とされる。内容はニネベの陥落とアッシリアへの裁き。ハバクク書:預言者ハバククの著とされる。バビロンの脅威が残酷な描写をもって描かれている。内容は「民の悪行に対する神の怒り」「異民族による怒りの執行」「怒りのうちにも憐れみを忘れぬ神」。ゼファニヤ書:預言者ゼファニアの著とされる。諸国とユダに対する神の裁き、その後の救いの喜びについて語られる。ハガイ書:エルサレム神殿の再建に関する預言者ハガイによる予言書。ゼカリヤ書:エルサレム神殿の再建に関する予言書。悔い改めを促す呼びかけ。マラキ書:預言の主題は宗教儀式の厳守、及び雑婚の禁止。祭司の堕落、軽薄な雑婚・離婚、捧げ物の不履行などに対する言及。 「太陽、月、植物の創造」ミケランジェロ・ブオナローティ画(システィーナ礼拝堂天井画) 「洪水」ミケランジェロ・ブオナローティ画(システィーナ礼拝堂蔵) 「イサクを捧げるアブラハム」ロラン・ド・ラ・イール(オルレアン美術館) 「モーセ」ミケランジェロ(サン・ピエトロ・イン・ヴィンコリ教会) 破壊されるソドムとゴモラから脱出するロト妻子。掟を破り後ろを振り向いたロトの妻が塩の柱になり始めている。(ニュルンベルク年代記) 「ソドムとゴモラの破壊」ジョン・マーティン 「落穂拾い」ジャン=フランソワ・ミレー(オルセー美術館) 「ダビデの弾く竪琴に聞き入るサウル」レンブラント・ファン・レイン 「ダビデ像」ミケランジェロ(アカデミア美術館) 「幼きサムエル」ジョシュア・レイノルズ(ファーブル美術館) 「知者ソロモンの裁き」 ギュスターヴ・ドレ 「王の前で気絶するエステル」アルテミジア・ジェンティレスキ 「エルサレム滅亡を嘆く預言者エレミヤ」レンブラント(アムステルダム国立美術館蔵) 「エゼキエルの幻視」ラファエロ・サンティ(ピッティ宮殿) 「ライオンの穴の中のダニエル」ルーベンス バビロンの滅亡を描いた木版画(ニュルンベルク年代記) バアル像(ルーヴル美術館) 「エルサレム神殿」エゼキエルの予言にある再建案を元に19世紀に図案化された 「旧約聖書」から(引用) 「自分の力と手の働きで、この富を築いた」などと考えてはならない。(申 8:17) 主の御声に聞き従わないがゆえに、滅び去る。(申 8:19) 裁きを曲げず、偏り見ず、賄賂を受け取ってはならない。賄賂は賢い者の目をくらませ、正しい者の言い分をゆがめるからである。(申 16:19) 主を畏れ敬うこと、それが知恵 悪を遠ざけること、それが分別。(ヨブ 28:28) 雄々しくあれ。心を強くせよ。主を待ち望め。(詩 27:14) 悪を避け、善を行い 平和を尋ね求め、追い求めよ。(詩 34 5:15) 戒めは灯、教えは光。懲らしめや諭しは命の道。(箴 6:23) 不遜な者を叱るな、彼はあなたを憎むであろう。知恵ある人を叱れ、彼はあなたを愛するであろう。(箴 9:8) 人間を豊かにするのは主の祝福である。人間が苦労しても何も加えることはできない。(箴 10:23) 英知ある人は沈黙を守る。誠実な人は事を秘めておく。(箴 11:11-13) 破滅に先立つのは心の驕り。名誉に先立つのは謙遜。(箴 17:12) 愚か者を雇い、通りすがりの人を雇うのは 射手が何でもかまわず射抜くようなものだ。(箴 26:10) 怠け者は自分を賢者だと思い込む(箴 26:16) 通行人が自分に関係のない争いに興奮するのは犬の耳をつかむようなものだ。(箴 26:17) 罪を隠しているものは栄えない。(箴 28:13) 人は、裸で母の胎を出たように、裸で帰る。〜 神に与えられた短い人生の日々に、飲み食いし、太陽の下で労苦した結果のすべてに満足することこそ、幸福で良いことだ。(コヘ 5:14-17) 気短に怒るな。怒りは愚者の胸に宿るもの。(コヘ 7:9) 何によらず手をつけたことは熱心にするがよい。いつかは行かなければならないあの陰府には 仕事も企ても、知恵も知識も、もうないのだ。(コヘ 9:10) 一度の過ちは多くの善をそこなう。僅かな愚行は知恵や名誉より高くつく。(コヘ 9:18-10:1) 青春の日々にこそ、お前の創造主に心を留めよ。(コヘ 12:1) 悔い改めるものは恵みの御業によって贖われる。(イザ 1:27) どのような仕事もしてはならない。安息日を聖別しなさい。(エレ 17:22) 正義と恵みの業を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救え。(エレ 22:3) 主の救いを黙して待てば、幸いを得る。若い時に軛を負った人は、幸いを得る。(哀 3:27) 正しい人の正しさはその人だけのものであり、悪人の悪もその人だけのものである。(エゼ 18:20) 悪人が自分の行った悪から離れて正義と恵みの業を行うなら、彼は自分の命を救うことができる。(エゼ 18:27-28) 善を求めよ、悪を求めるな お前たちが生きることができるために。(アモ 5:14) お前がしたように、お前にもされる。お前の業は、お前の頭上に返る。(オバ 15) 主の道は永遠に変わらない。(ハバ 3-6) 高慢な者、悪を行うものは すべてわらのようになる。〜 しかし、わが名を畏れ敬うあなたたちには義の太陽が昇る。(マラ 3:19-20) 旧約聖書続編 「旧約聖書続編」は下記で構成されています。 トビト記:失明したトビトとその息子トビアを天使ラファエルが助ける物語。トビアはサラについていた悪魔(アスモデウス)を追い出してサラと結婚し、トビトの目も癒された。ユディト記:アッシリア王ネブカドネツァルがホロフェルネスを派遣してユダヤを責める。美しい寡婦ユディトがホロフェルネスを誘惑した上で首をはね持ち帰った。これによりアッシリアの軍勢は敗走した。エステル記(ギリシャ語):ペルシャの王クセルクセスの后となったモルデカイの養女でユダヤ人女性エステルの知恵と活躍を描く。エステルの勇気ある行動により、ユダヤ人を皆殺しにすべく陰謀をめぐらせていた権力者ハマンが処刑された。ユダヤ人の解放を祝うユダヤ教の祭りプーリームが成立した。(ヘブライ語のエステル記に追加した内容)マカバイ記1:マカバイ戦争など、ヘレニズム時代のユダヤの歴史を描く。マカバイ記2:エジプトのユダヤに対する迫害とそれに対抗する宗教的情熱、ユダ・マカバイの活躍が描かれている。登場人物はヨナタン、シモン 他。ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが作曲した「ユダス・マカベウス」の「見よ勇者は帰る」のモチーフである。知恵の書:「ソロモンの知恵」とも呼ばれ、知恵の重要性、信仰が最上の知恵であることを説く。シラ書(集会の書):著者の名から「ベン・シラの知恵」とも言われる、信仰に基づいた処世術、教訓、格言の集成。主を畏れることこそ最高の知恵であるとする内容。バルク書:バルクの著とされる。知恵の賛美が見られ、知恵=律法と説く。エレミヤの手紙: 偶像礼拝の愚かさ、無力さを一貫して指摘した、バビロンへ拉致されることになった民への手紙。ダニエル書補遺: 賢者ダニエルにまつわる3種の教訓的短編。燃え盛る炉に投げ込まれた3人がアザルヤの祈りよって天使に守られ、神を賛美する内容「アザルヤの祈りと三人の若者の賛歌」。ダニエルが、無実の罪に問われた女性スザンナの潔白を証明する「スザンナ」。ダニエルが、王がベルという偶像に捧げる大量の食料を消費しているのは実は祭司らであることを突き止める「ベルと竜」。エズラ記(ギリシャ語): ユダ王国の王ヨシヤの過越からエズラの活動に至るまでの歴史。エズラ記(ラテン語): 「苦しみを味わい、しかもこの苦しみが何なのかわからずにいるよりは、むしろ生まれなかった方がよかったのです。」(エズ・ラ 4:12)などの根源的な問いに対して天使や神が答え、七つの幻をエズラに見せるというのが主な内容。天使は「被造物は創造主の先回りをすることはできない。」(エズ・ラ 5:44)と答える。マナセの祈り:バアル崇拝、アシタロテ崇拝を再興したユダの第14代の王マナセが、バビロンに連行されたがへりくだって神に祈り、帰国を許された。 「大天使ラファエルとトビアス」ティツィアーノ・ヴェチェッリオ(アカデミア美術館 ヴェネツィア)