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ドラッカー「断絶の時代」から存続する組織と個人の在り方を考察する

時代を予期した伝説の書といわれる「断絶の時代」(ピーター・ドラッカー著、ダイヤモンド社刊)から、苦境の時代を超えて存続するための組織と個人の在り方について考察しました。本書では、現代は「知識社会」であり「組織社会」であり、また「グローバル化した社会」であることが強調されています。本書の重要なポイントを紹介し、順にその要点を説明していきます。 ■ 現代は知識社会である 知識は機能する時に初めて存在する一種のエネルギー 知識は経済と社会の基盤であり行動の原理そのもの 真の平等は知識社会においてのみ実現しうる 「知識」とは、情報を応用して価値創造の源泉としたものを意味します。例えば、データを分析して改善に役立てる方法なども知識に該当すると考えられます。現代の社会は、かつての肉体労働に変わって知識労働が主流となっており、この傾向は今後さらに加速していくとされています。高度な知識社会に適応すること、つまり学び続けることは組織や個人の存続にとって非常に重要です。誰もが教育を受け、機会を得られる社会こそが真に平等な社会であるとしています。 ■ 現代は多元化した組織社会である 組織社会は自由の代価としての責任を求める 組織の目的は社会に対する貢献 現代は、企業はもとより、政府機関、大学、非営利組織など多元化した組織が相互に関連して存在しています。それぞれの組織は専門性を持ち、意思決定を行い成果を上げる自由を持つ代わりに、決定に伴う責任が課せられています。全ての個人が何らかの形で組織に所属しているため、すなわち全ての個人に責任が求められることになります。自分の担当する範囲の事において、責任感を持って行動することが自由であるための要件といえます。一方で、自分の担当範囲外のことについて責任を負うことは、越権行為であるとしています。 ■ 利益は明日のためのコストである 企業はイノベーションのための機関(一方で保護的維持機関である政府はイノベーションに不向き) 企業の利益とは余剰ではなく不確実な明日のためのコスト 企業の利益はコストの管理を95%程度にとどめた時に最大となる 企業と政府機関の違いはイノベーションを必要とするか否かという点で性質が大きく異なります。また、利益とは余剰ではなくコストであるという点は、企業の存続には利益が不可欠であることを意味します。政府機関はその性質上100%のコスト管理を求められるのに対し、企業は95%のコスト管理が適しています。これは、残りの5%のコスト管理に膨大な費用がかかるためです。極度の厳密さは企業にとってはマイナス影響を及ぼすことを示唆しています。 ■ 教育は開発されていない唯一の職業である 継続教育が真のゼネラリストを生み出す 優先順位の決定は科学ではなく価値観による選択でなければならない 倫理は自己規律によって律すべき 継続教育とは社会に出てから学校に戻って教育を受け、また社会に出るようなサイクルを繰り返すことを意味します。社会に出た経験を踏まえて学習した方がより効果が高い知識が多々あるためです。知識社会においては教育こそが重要な役割を担うため、継続教育を行う柔軟な教育体制が必要であるとしています。また、何を優先して行うかの決定は価値観つまり倫理観が求められるとしています。個人の倫理観と組織の倫理観は異なりますが、難しい判断を迫られた際に的確な選択を行うためにも、各々が倫理的な基準を持つことは重要です。未来を創造することは、知識を超えた(価値観に基づく)芸術の領域であるともしています。 ■ 変化の時代にこそチャンスがある グローバル経済は分裂した世界に調和をもたらす われわれが直面する最も大きな断絶は知識の地位と力の変化 「断絶の時代」こそ「好機の時代」である グローバル化した社会では、国境を超えた投資と貿易は拡大するのが望ましいとしています。これまでの、金(物)が価値の中心であった社会から、知識が価値の中心となりうる変化の時代には、情報の収集、蓄積、応用を体系的に行い効率的に価値を創出する技術や能力が求められます。グローバルな視点で物事を考え、人類の存続(持続可能な未来)に貢献しようとする組織や個人にとっては機会に富んだチャンスの時代ということができます。 ———- 本書は1960年代の著作ですが「断絶の時代」は1965年から2025年まで続くとしています。つまり「断絶の時代」は間もなく終わりを迎えることになりますが、ピーター・ドラッカー氏の予期した未来は、既に高い精度で現実となったということができます。本書は現代の社会情勢の成り立ちを理解する助けになり、知識社会おける情報の収集、蓄積、応用について考えを深めるきっかけとなります。断絶の時代を超えて存続するための示唆に富んだ本書のご一読をお勧めいたします。書籍の詳細は下記からご覧ください。 (当記事執筆者:辻中 玲) 「断絶の時代」ピーター・ドラッカー著 「ビジョナリーカンパニー ZERO」でビジョン・戦略を考える ビジョナリーカンパニー -弾み車の法則-

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「HPウェイ」からデジタル化と経営の原則を学ぶ

デービッド・パッカードが著した「HPウェイ: 偉大なる経営者が遺した経営理念と行動規範」は、経営書の定番として多くのビジネスパーソンに読まれる名著です。 コンピューターと電子計測機器の製造を行うヒューレット・パッカード社は、ビル・ヒューレットとデービッド・パッカードによって1939年に創業されました。発祥の地であるカリフォルニア州パロアルトにあるガレージは、シリコンバレー発祥の地となっています。 その中で核心となる経営論「HPウェイ」は下記の7項目から成り立っており、業種や規模に関わらず、あらゆる企業が理解しておくべき普遍的な原則となっています。 ———- 利益利益は社会に貢献するための最善の手段であり、企業の力を示す究極の情報源である。他の目標と矛盾することなく、最大限の利益の達成に努めるべきである。 顧客顧客に提供する商品の品質、利便性、価値を、つねに改善する努力をする。 関心分野新たな成長の機会をつねに探りながら、わが社に対処能力があり、貢献が可能な分野のみに関与する。 成長企業の力の現れとして、また存続の必要条件として、成長を重視する。 従業員みずから貢献した成功に対して分配を受ける機会など、雇用にともなう機会を従業員に与える。実績にもとづいて雇用を保障し、仕事の達成感から個人的な満足を得る機会を提供する。 組織一人ひとりのやる気、自発性、独創性を育てる組織環境を維持し、定められた目標や目的に向かうときの自由裁量を広く認める。 市民としての行動会社を取り巻く地域社会や、そのなかのさまざまな組織に貢献し、よき市民としての義務を果たす。 ———- また、本書には下記のように、HPにおける様々な実務上の目安となる基準も提示されています。こちらは企業によって適応の可否や調整が必要な部分かと思いますが、強固な事業基盤を構築した基準として、経営において非常に参考になるかと思います。 年間の研究開発費は売上高の8〜10% 従業員への利益の分配率は基本給の4.1%〜9.9% 新規事業はライフサイクルを通してもたらされる利益が開発にかかったコストの6倍以上になるものを採用する 1〜2年の景気後退への対処は労働時間を10%短縮して賃金を10%減らす 利益を再投資し長期借入金には頼らない 重要ポストにつく人物は社内から選ぶ 新製品を通して事業を展開する HPから1977年に発売された「HP-01」は、スマートウォッチの原型とも言われています。1977年にウェアラブルデバイスを生み出したシリコンバレーの文化の原点に触れることができます。その文化の流れを汲むGAFAMが現代の世界を席巻していることは決して偶然ではありません。 本書は、テクノロジーに関わる方だけでなく、デジタル化への理解を必要とするあらゆるビジネスパーソンの皆さまに、ご一読をおすすめいたします。 (当記事執筆者:辻中 玲) HPウェイ: 偉大なる経営者が遺した経営理念と行動規範 「ビジョナリーカンパニー ZERO」でビジョン・戦略を考える ビジョナリーカンパニー -弾み車の法則-

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「ビジネスEQ―感情コンピテンスを仕事に生かす」からマネジメントを学ぶ

「ビジネスEQ―感情コンピテンスを仕事に生かす」(ダニエル ゴールマン著 梅津 祐良訳 東洋経済新報社)から、組織運営のポイントを紹介します。本書によると、EQ(Emotional Quotient)は心の知能指数のことで、EQはビジネスで成功するための要素としてIQ(Intelligence Quotient ※知能指数)の3倍の貢献度を持つとしています。IQが高い人は「頭の切れる人」、EQが高い人は「空気が読める人」であるとすれば、空気が読めることはビジネスで成功するためには欠かせない要素であると言えます。 本書では、自己管理のためのヒント、企業(組織)マネジメントのためのヒントが数多く紹介されています。本書から、それぞれの重要なポイントをご紹介します。 自己管理のためのヒント 5つのEQの領域とは「自己認識」「自己統制」「モチベーション」「共感性」「社会的スキル」である タイムマネジメントは、時間の空費を排除する、自分を向上させるという達成意欲に支えられる 競争と継続的改善に対する情熱を備える 企業(組織)のマネジメントに関するヒント 組織の全てのレベルで不確実性に対して柔軟に対応する能力が要求される アイディアは協調から生まれ、能力の多様性は技術上の要求からはじまる 企業の目的のなかに「人間的側面」と「財務的側面」をバランスさせる 基本的戦略に組織全体でコミットする 組織内での「協力」「支援」「リソースの共有」を実現し、「イノベーション」「リスクテーキング」「組織学習」を促す 「認知能力」「技術的専門能力」「社会的スキル」「感情コンピテンス」に焦点を当て人的資産をマネジメントする すべてのステークホルダーとの間にオープンなコミュニケーションと信頼を築く 社内外に諸関係を築いてネットワーク化し、業績の向上に全員のエネルギーを集中させる 将来パートナーとして活躍できる人材、情熱あふれる家族的メンバーを雇用する 企業と人材との関係は、相互間の忠誠心という一語で言い表せる 事業の成功には、認知能力、技術的専門能力、社会的スキル、感情コンピテンス(感情能力)が欠かせないことが理解できます。皆様もEQを重視したマネジメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。そのヒントが得られる本書のご一読をお勧めします。本書の詳細は下記からご覧ください。 (当記事執筆者:辻中 玲) ビジネスEQ―感情コンピテンスを仕事に生かす ビジネスの決断を助ける「易」という哲学について ビジネスの意思決定を支えるアリストテレスの哲学「ニコマコス倫理学」の要約

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「ビジョナリーカンパニー ZERO」で自社のビジョン・戦略を考える

「ビジョナリーカンパニー ZERO」(ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著 土方奈美訳 日経BP)から、経営のポイントを紹介します。本書は、経営書の「ビジョナリーカンパニー」シリーズの原点となる書籍「ビヨンド・アントレプレナーシップ」(日本語未訳)を元に再構成されています。本書では「ビジョンはあらゆる階層の社員が意思決定するためのコンテクストとなる」として、企業文化とりわけ「ビジョン」の重要性を説いています。偉大な企業は「ビジョン」のもとに信頼と敬意、愛に根ざした文化を醸成してきたと結論づけています。 また本書では、「ビジョン」のもとで「リーダーシップ」「戦略」「戦術」「イノベーション」を実行するための具体的な方法も多く解説されています。本書から、経営にとって重要なポイントをいくつかご紹介します。 賢い会社は得意なことに集中する 目標は社員が主体的に決め厳守する 優先事項は3つまでとし、一度に1つのことに集中する ベスト(最高)はファースト(一番のり)に勝る 備えをする企業は常に先を走り続ける 分権化と自律性は他のどんな選択肢よりも優れている 偉大な企業はコアバリューを徹底するメカニズムを生み出す 下記の図のように「ビジョン」は3つの要素で構成され、「ビジョン」のもとで「戦略」や「戦術」が遂行されます。(細字は各要素の継続期間) 例として、この原則を元に当社(DIINC.)の企業文化について明文化したものが下記です。 ■DIINC.の企業文化 【コアバリューと理念】未来のために、最高の仕事をする 【パーパス】創造的活動を通して、社会の発展に貢献する 【ミッション】2030年までに、ビジネスデザイン業界で最も尊敬されるデザイン会社になる 【戦略】デザインとマーケティングで顧客のビジネスを発展させる 【戦術】ECマーケティング(経営コンサルティング × EC構築・運用支援 × オンライン広告)サービスを強化する ビジョナリーカンパニーでは、一貫して「正しい人をバスに乗せ、間違った人をバスから降ろす」ことの重要性を説いており、人材の採用や評価は言うまでもなく最も重要な企業活動の一つとなります。そのためにも企業文化の明文化は欠かせません。 偉大な企業であり続けるためには、ビジョンを持つことは必須要件と言えます。皆様も自社の企業文化の明文化に取り組んでみてはいかがでしょうか。企業文化がどのように企業の存続に関連するのか、そのメカニズムが理解できる本書のご一読をお勧めします。書籍の詳細は下記からご覧ください。 (当記事執筆者:辻中 玲) ビジョナリー・カンパニー ZERO ビジョナリーカンパニー -弾み車の法則- ピーター・ドラッカー「断絶の時代」

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危機の時代を乗り切る「マネジメントのヒント」〜経営書籍より〜

不確実性が高まる危機の時代を乗り切るマネジメントのヒントを、経営に関連する書籍よりまとめました。 市場を読め 株式市場に参加し、経済の原則を理解せよ。危機の時代の犠牲者になるな。参考:「危機の時代」ジム・ロジャーズ著 時代の先を読め 市場を左右する事実要因(人口動態など既に起こった未来)にもとづいて、優れた製品を効率的につくれ。参考:「GMとともに」アルフレッド・P・スローン著、「創造する経営者」ピータードラッカー著 本業に専念せよ 焦点を絞り込み、最先端の技術を使い、顧客第一の姿勢を貫け。それによって競争相手を潰せ。参考:「巨像も踊る」ルイス・V・ガースナー著 強みに焦点を当てよ 「今、ここ」で必要とされる能力に焦点を当てよ。採用は強さを伸ばすために行え。 参考:「HARD THINGS」ベン・ホロウィッツ著 得意分野に投資せよ 消費者が押しかける企業の株価は値上がりする。自らの得意分野に投資し、保有し続け利益を上げよ。参考:「株式投資の法則」ピーター・リンチ著 ニッチを攻めよ 成長するビジネスを発掘して進出せよ。製品ニッチか地域的ニッチで、業界一番手か二番手を維持せよ。参考:「わが経営」ジャック・ウェルチ著 生産体制を整備せよ 時間は競争上の武器となる。顧客の5年先の要求まで検討し、製造をファクトリー化せよ。参考:「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」アンドリュー・S・グローブ著 収益力を高めよ 新製品の開発を続けるとともに、コストを減らし生産力を向上させて、収益力を高め、競争力を強めよ。参考:「すばらしき株式投資」ピーター・リンチ著 利益を上げよ いかなる環境下においても利益を上げなければならない。投資対効果を重視せよ。利益なしに企業は存続できない。参考:「現代の経営」ピータードラッカー著、「GMとともに」アルフレッド・P・スローン著 企業文化を明文化せよ 「ビジョン」のもとに信頼と敬意、愛に根ざした文化を醸成せよ。参考:「ビジョナリー・カンパニー ZERO」ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著 チームを構築せよ 人間主義を徹底し、人を育て公正に評価し、知能労働に特化した偉大なチームを構築せよ。参考:「現代の経営」ピータードラッカー著、「ビジョナリーカンパニー」ジム・コリンズ著 顧客を第一にせよ お客がボスである。適正かつ倫理的に運営されている自由競争企業として人々の暮らしを向上させよ。参考:「私のウォルマート商法」サム・ウォルトン著 個の能力を高めよ 一人ひとりの生産性を高めるため、科学的管理(マネジメント)を徹底せよ。参考:「科学的管理法」フレデリック W.テイラー著 感情知能を高めよ 事業の成功には、認知能力、技術的専門能力、社会的スキル、感情知能が欠かせない。参考:「ビジネスEQ」ダニエル ゴールマン著 資本と信用を増やせ 長期にわたって勤勉に働き、倹約し、注意深く事業を進めよ。真の通貨である、労働に焦点を当てよ。参考:「国富論」アダム・スミス著 己の声に耳を傾けよ 周囲の情勢や人間関係に影響されず、己の「内なる声」に注意深く耳を傾け、資源の選択的分配を行え。参考:「空へ」ジョン・クラカワー著 自分の頭で考えよ 歴史、哲学、芸術、数学、科学を学び、自分の頭で考え決断せよ。他者との差異で競争せよ。参考:「危機の時代」ジム・ロジャーズ著、「僕は君たちに武器を配りたい」瀧本哲史著 質素に暮らせ 鉛を選ぶものは神の与え給うものを得べし。質素に暮らし、顧客への奉仕に集中せよ。参考:「ヴェニスの商人」シェイクスピア著、「私のウォルマート商法」サム・ウォルトン著 開拓者であれ 機会を開拓せよ。機会を最大化できる自社の知識で勝負せよ。参考:「創造する経営者」ピータードラッカー著 誠実であれ 誠実さを価値基準の土台とせよ。誠実さより大切なものはない。参考:「わが経営」ジャック・ウェルチ著 正義と善行に励め 策略は不敵な心構えに根差している。正義、善行は豊かな利を生む。人類のため社会のための創造的活動に絶えず努め励め。参考:「ファウスト」ゲーテ著 自由を追求せよ それぞれが自身の行動に責任を持ち、自由、平等、正義を追求せよ。参考:「国富論」アダム・スミス著 変化に適応せよ 種の保存は、自然選択と適者生存の上に成り立っている。地に足を付け、環境の変化に適応せよ。参考:「種の起源」ダーウィン著 改善せよ 人間は知識を求め徳に従うべく生まれた。悔い改め、信仰によって救いを求めよ。参考:「神曲(地獄編)」ダンテ著 社会の一員として行動せよ 全ての人間は自己自身の主人である。人に寛容になり、自由と平等を追求し、人々の世論を正しくせよ。参考:「社会契約論」J.J. ルソー著 (当記事執筆者:辻中 玲)

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「1日6食時代」マーケティングセミナー

マーケティングセミナー【インテージクオリス・MarkWeb】Topic1 ~1日6食時代の「三食以外」とは何か~(オンラインセミナー)に参加しました。 登壇者:株式会社 ショッパーファースト シニアフェロー 辻中俊樹氏    株式会社 インテージクオリス マーケティングリサーチャー・マーケティングコンサルタント 小関久美氏 コロナ禍で顕在化された新しい「食」の在り方に関する話題を中心に、マーケティングや定性調査に関する内容でした。 多数の定性調査に基づく食シーンの実態から見ると「主食と副食」「和洋中」などという概念がなくなり、食シーンの組み立てが自由になっている。 例えば、朝昼晩の時間がずれ、流通菓子・手作り菓子・もらいものの菓子・高級菓子などが並列して様々な時間に食べられている。また、様々な時間や場所で出現する飲料も多彩である。 そのような事実から事象の持つ価値を的確に捉えるためには、TPOPPというフレームワークの使用が有効である。これは、特定の事象を、Time(時間帯)、Place(場所・空間)、Occasion(事情)、Product(商品等)、Psychology(心理的効用)の要素に分解して捉える手法である。(例:“ある朝に食べたアップルパイと雑炊”「午前6:30」「自宅のダイニング」「お腹がすいたので軽く」「手作りした残りのアップルパイと前日の鍋の残りのスープで作った雑炊」「美味しく残り物も片付いた」のように分解することができる。さらにその後、AM10:30に会社のデスクで、通勤電車から降りた後にコンビニで買った、サンドイッチとコーヒーを喫食したりする…これがいわゆる「1日6食時代」のシーンといえる ※本例は参加者の理解から作成) 新型コロナ禍で、移動が停止状態に追い込まれ経済社会リズムが崩れている。コロナ後では、コロナ前の状況に戻る部分もあると言われるが、戻る位置が違うと認識しておく必要がある。 具体的には、コロナ前から顕在化しつつあった「自然」と「生活行動」の関係性は重要性が高まる。本来人間は自然と一体となった生活に価値を持っている。自然のリズムと人の行動は関係しており、その切り口はマーケティングに活用することができる。例として、天気や歳時など自然のリズムに合わせた切り口がある。 マーケティングにおいて、例えばサブスクリプションのように日常生活に自然に入り込む(存在する)ことが重要となっている。価値の押し付けは受け入れられにくくなる。 生活行動を観察し、十人十色を前提としたペルソナづくりが必要となる。無意識や不意な行動から価値を発掘するのは、定性調査が得意とする領域である。 その他、弁当、新玉葱、コインランドリーとパンの関係、健康ではないプラントベースの売り方などについて、約70分にわたり様々なお話がありました。 「TPOPP」のフレームワークは、弊社のサービスにも取り入れており、創造活動における様々なシーンで応用が可能です。また、「自然のリズムに合わせた生活行動」や、「サブスクリプション」についても、引き続き研究していきたいと思います。   次回は、電車や駅のあり方などを中心にさらに掘り下げたセミナーが開催されるとのことです。詳細は、インテージクオリスやショッパーファーストのサイト等で、適宜案内があるかと思います。マーケティングリサーチの中でも特に定性調査ご興味をお持ちの方は、チェックしてみてはいかがでしょうか。 また、現在本テーマに関連した研究プロジェクトが進んでおります。ご参加をご希望のお客様にはご案内を差し上げますので、弊社までお問い合わせください。

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「ビジョナリーカンパニー -弾み車の法則-」で自社の弾み車を考える

「ビジョナリーカンパニー -弾み車の法則-」(ジム・コリンズ著 土方奈美訳 日経BP)から、経営のポイントを紹介します。本書は、経営書の「ビジョナリーカンパニー」シリーズの要約版となっており、手軽に読めるよう91ページでコンパクトにまとめられています。同シリーズでは一貫して規律の重要性を説いており、本書においても「真の規律には、あるべき価値観やパフォーマンス基準、長期目標と矛盾するような同調圧力をはねのける精神的な独立性が必要である」としています。本書で解説されている、経営にとって重要なポイントを以下にいくつかご紹介します。 本物の規律とは自己規律のみである 規律の文化と起業家精神を組み合わせることで成果が生じる 最高の人材なき最高のビジョンは無意味である 偉大な会社は関与したコミュニティに貢献する 偉大な企業の貢献は他の組織では容易に埋められない 偉大さとは終点なきダイナミックなプロセスである また、本書は「ビジョナリーカンパニー② -飛躍の法則-」で解説された「弾み車の概念」がテーマとなっており、本書にはいくつかの企業の弾み車の事例が登場します。 これを元に当社の弾み車について具体化したものが下記です。1〜6を繰り返すサイクルが当社の弾み車です。 成功体験を蓄積して顧客に提供する 顧客のビジネスが発展する さらなる施策を実施するため追加の依頼を受ける 業務を効率化しキャパシティーを増やす 対応できる顧客が増加する より多くの仕事をした中から成功体験が生まれる デザイナーやクリエイターが市民権を得つつあるなかで、デザインに携わる企業はそれぞれが真の規律を構築し、規律を重視して経営に取り組まなければなりません。当社の弾み車の上部に「成功体験の顧客への提供」がある理由は、顧客のビジネスが発展することは、延いては経済の活性化に繋がると考えているためです。経済が活性化すること(価値が創出されること)で、人々の暮らしが豊かになります。その活動へのコミットメントが企業には求められているのではないでしょうか。 当社では成功体験の蓄積や業務効率化のために、社内に顧客管理や業務管理などの様々なシステムを整備しています。当社の取り組みの中には、通常では説明のつかない抜群にコストパフォーマンスの高い広告手法が生まれています。その手法やエッセンスを各顧客へと還元するプロセスの構築に取り組んできました。長きに渡り継続していく取り組みではありますが、成功体験の循環の成果が各種プロジェクトで現れはじめています。 皆様も是非、自社の弾み車の可視化に取り組んでみてはいかがでしょうか。そのヒントが得られる本書のご一読をお勧めします。 さらに「弾み車の法則」の効果と合わせて理解すべき概念が「ビジョン(コアバリューと理念・パーパス・ミッション)」です。「ビジョン」の解説は、2021年8月に発売された最新刊「ビジョナリーカンパニーZERO」の内容を基に解説しています。こちら(「ビジョナリーカンパニー ZERO」で自社のビジョン・戦略を考える)からご覧ください。 ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則 (当記事執筆者:辻中 玲) 「ビジョナリーカンパニー ZERO」でビジョン・戦略を考える ビジネスの本質を理解する「聖書」の価値観について

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「空へ」からリスク管理について考える

「空へ エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」(ジョン・クラカワー著 海津正彦訳 文藝春秋)から、リスク管理を行う上でヒントになりそうなポイントを紹介します。本書は、1996年5月、多くの死者を出したエヴェレスト登山隊に参加し、九死に一生をえて生還した作家が描くエヴェレスト大量遭難の軌跡です。本書の事故についての詳細な記述は、クライミングにおけるいくつかの事実を示唆しています。 クライミングは危険さゆえに人を惹きつける 事故はつまり「人間の過ち」である 周囲の情勢や人間関係により率直に行動できないことが危機を招く 小さな過ちが、ゆっくりと危機的な大きさに成長していく 計画を無視することが重大な結果を引き起こす要因となる 死なないために、己の『内なる声』に注意深く耳を傾ける必要がある (頂上を目前にして)引き返すか(アタックして)死ぬかの二者択一の場面においては、登山家・芸術家として前者に耐えられないという状況が発生する 過酷な状況下においては組織は解体し存在しなくなる 過酷な状況下においては(誰の命を救うかという)資源の選択的分配という状況が発生する これを経営に置き換えて考えると、リスク管理に通じるものがあります。経営においても、「人間の過ち」を防ぐためには、「内なる声」に耳を傾け、周囲の情勢や人間関係に影響されず率直に行動する必要があります。本書では、過酷な状況下においては組織は解体するため、所属する個人は自分自身に帰属することとなり、そこでは、すべて自己責任での判断を要するとしています。標高8,848メートルのエヴェレストでは、あらゆる判断は過酷な状況下で行われ、自己の命を守れない者は命を落とすことになります。 一方、経営においても、自然災害や疫病、テロなど過酷な状況が発生するリスクは常に存在します。近年BCP(事業継続計画)の策定が重要視されているのも、経営とリスク管理が切り離すことのできない関係にあることを意味しています。そのような緊急事態だけでなく、経済情勢の悪化や、業務上の事故など備えるべき点を挙げればきりがありませんが、リスク管理の意識を持って経営に取り組むことは非常に重要です。 本書では、クライミングにおいては「最も過酷なルートに、最少の装備で、考えられるかぎりもっとも大胆なスタイルで組み付いていったとき、名声をえる」とされています。経営に置き換えて考えると、会社が倒産することが賞賛されることはないため、この点はスポーツと経営が全く異なる点といえそうです。経営が組織の機関によるもの、スポーツが根本的には個人の機関によるものという本質的な違いによるのかもしれません。 本書は、経営書「ビジョナリーカンパニー4」(ジム・コリンズ著 日経BP)のモチーフになったものであり、リスク管理について多くを学べる内容となっていますので、是非ご一読を勧めします。 (当記事執筆者:辻中 玲) 空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫) Amazonで見る ビジネスの決断を助ける「易」という哲学について ビジネスの意思決定を支えるアリストテレスの哲学「ニコマコス倫理学」の要約

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「ビジョナリーカンパニー4」に学ぶ経営に必要な5つのポイント

「ビジョナリーカンパニー4 自分の意思で偉大になる」の内容を5つのポイントに要約して解説していきたいと思います。 1.「規律」「規律」があることによって、一貫した価値観、そして一貫したペースを維持できるようになります。「規律」は一貫している限りは、必要に応じて変更していくことができるとされています。 2.「実証主義」小さな取り組み、小さなプロジェクトをいくつも行ってその結果に基づいて一気にどこに投資するかという大きな投資判断をするということが重要だとされています。これが、成功確率を高め、またリスクを最小化して投資判断をする方法だと解説されています。 3.「危機管理」常に、万が一に備えておくことが重要です。危機的な状況に対応するための余力を常に持っている必要があるとされています。これには、保守的なバランスシートが重要です。借入そして資産のバランスをコントロールして、そして潤沢な手元資金がある状態にする必要があります。 4.「行動基準」自己利益のために行動するのではなく、社会に貢献するという「大義」に基づいて行動することが大事になります。これによって創造性を最大化することができると解説されています。その上で、幸運からも不運からも、成功からも失敗からもしっかりと教訓を得て生き残って必ず偉大になるという強い意志が必要だとされています。 5.「人間主義」つまり企業を作るのも経営するのも人であり、偉大な企業をつくる方法は、つまり偉大な人たちと一緒に活動することだと解説されています。社員、スタッフ、メンバー、その適材こそが最重要な資産であり資源であるという、このテーマは、ビジョナリーカンパニーシリーズで一貫しているメッセージでもあります。 “自分の意思で偉大になる”という大きなテーマを掲げた「ビジョナリーカンパニー4」ですが、数々の企業研究に基づいて、経営のポイントがわかりやすく解説されています。ぜひ、ご一読をおすすめいたします。 (当記事執筆者:辻中 玲) ビジョナリー・カンパニー4 自分の意志で偉大になる Amazonで見る 【聖書要約】世界視点を養うための「聖書」への理解について ビジネスの決断を助ける陰陽哲学「易」について

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「経営は実行」に学ぶ経営の3つの鉄則

今回は、経営者やリーダーに向けて書かれた書籍「経営は実行 -明日から結果を出すための鉄則-」の内容について、簡単に説明していきます。 この書籍では、経営で最も重要な下記の3つの要素が柱となっています。1. 「人材」2. 「戦略」3. 「業務」つまり、良い人を集め、計画をたて、業務を改善していくことが経営の鉄則であるということです。 1つ目の「人材」については、上下関係の壁を超えて、率直に議論できる組織が良いとされています。社員の実績を公正に評価して、役職や報酬に連動させる、これが、人材育成の鉄則であるということです。 2つ目の「戦略」は、状況を正確に把握した上で、社員の改善案も取り入れながら現実的な戦略を立てることです。戦略は簡潔にして組織で共有して、そして、継続的にフォローしていく必要があります。 3つ目の「業務」についてですが、社会のニーズに対応した差別化された商品、または新商品を通して未来に新しい価値を創造していくことが必要であると解説されています。 経営に重要な3つの要素ですが、これを実行に移していくためには、リーダーの役割が非常に重要になります。リーダーは、人を育て、そして計画をたて、業務を改善する、この3つの仕事を通して経営を行っていきます。リーダーを中心にして社員が目標を共有して協力して組織を発展させていくことが成功の秘訣であるということです。 本書に登場するのは大企業の事例ではありますが、組織の規模を問わず経営者やリーダーの皆さまにはお勧めの内容となっていますので、是非ご一読をおすすめいたします。 (当記事執筆者:辻中 玲) 経営は「実行」〔改訂新版〕 Amazonで見る ビジネスの決断を助ける「易」という哲学について ビジネスの意思決定を支えるアリストテレスの哲学「ニコマコス倫理学」の要約

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「イノベーションのジレンマ」からニッチビジネスについて考える

「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン著 玉田俊平太 監修/伊豆原 弓 訳 翔泳社)から、ニッチビジネスを成功させるヒントになりそうなポイントを紹介します。本書は、ハーバードビジネススクールの看板教授として活躍した故クレイトン・クリステンセン教授の代表作で、破壊的技術が起こるプロセスを多くの事例研究に基づいて詳細に解明したものです。 本書によると、持続的技術を得意とする企業には下記の特徴があります。 顧客の声に耳を傾ける。 求められたものを提供する技術に積極的に投資する。 利益率の向上を目指す。 小さな市場より大きな市場を目標とする。 そのため、持続的技術を得意とする企業が破壊的技術に直面して市場のリーダーシップを失う原因は「企業規模とその企業の最重要顧客」にあると結論づけています。 一方、破壊的技術に関しては下記の特徴があります。 単純、低価格、高信頼性、便利であることが最大の価値基準である。 事業は学習のための計画である。 技術的な挑戦ではなく、マーケティング上の挑戦である。 製品、機能、スタイルを短期間に低コストで変更できる製品プラットフォームがある。 初期の市場は調査ではわからないため「市場に関する情報で役に立つのは実際に代金を払う現実の人びとに現実の製品を売ることによって得た情報だけである」とされています。これは、事実に基づいて行動し、失敗から学び、改善を重ねることを前提にビジネスを構築しなければならないことを意味しています。 不確実な中でもビジネスを成功させるためには「顧客の需要の軌跡と、自社の技術者の供給の軌跡を両方理解する必要がある」ということです。これは、先見の明と自社のビジネスに対する深い理解の両方が欠かせないということです。 立ち上がり時はニッチビジネスであったのにも関わらず、破壊的イノベーションとして大きく発展し社会を変えていくというストーリーは、いつの時代も起業家を魅了します。破壊的イノベーションのプロセスを理解することで、経営者や起業家にとっては経営判断の大きな助けとなることと思います。是非ご一読を勧めします。 (当記事執筆者:辻中 玲) イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Amazonで見る ビジネスの決断を助ける「易」という哲学について ビジネスの意思決定を支えるアリストテレスの哲学「ニコマコス倫理学」の要約

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「種の起源」から経営について考える

博物学の幅広い基盤の上に立つ、ダーウィンの著作「種の起源」より、経営に適用しうるエッセンスがないか探してみました。いくつかヒントになりそうな点を、以下に紹介したいと思います。 種の起源の最も主要な主張は次のようなものです。 自然は飛躍しない つまり、生物は約38億年前に誕生してから、自然選択により長い時間をかけて進化してきたということです。種の保存が、自然選択と適者生存の上に成り立っており、突然生まれ出た(神によって創造された)種はないというのが、進化論の重要な要点となります。 さらに興味深い点が下記の記述にあります。 かつて地球上に生存した生物はすべて、おそらく、生命が最初に吹きこまれたある一個の原子形態からゆらいしたものであろうと、推論せざるをえないのである。(中略)現生生物のあらゆる種類はシルリア紀よりずっと以前に生存した生物から系統をひく子孫であるから、われわれは、生殖による通常の継続はかつて途切れたことはなく、天変地異が全世界を荒廃させたこともないということを、確実であると感じてよいであろう。それゆえわれわれは、いくらかの自信をもって、それと同等に、想像できないほど遠いさきではあるが、確かな未来を、見とおすことができる。そして、自然選択はただおのおのの生物の利益によって、またそのために、はたらくものであるから、身体的および心的の天性はことごとく、完成にむかって進歩する傾向を示すことになるであろう。「種の起源」(下)ダーウィン著・八杉隆一訳 岩波文庫 より つまり、あらゆる生物は一つから始まったというものです。そして現存する生命は、最初の生命が誕生した約38億年前から途絶えたことがないため、これから先も長く進化しながら生存していくというものです。ダーウィンのいう未来が38億年先であるとしたら、私たちの子孫つまり進化した人類は38億年先にも存在しているということになるのです。 さて、話は変わりますが、これを経営に置き換えると、誰かしらの何らかの意図を持って創造されたビジネスは存在し得ないと解釈できます。突然のアイデアやひらめきで生み出されたように見えるビジネスも、必ず何らかの歴史(基盤)に基づいた連続性を持っているということになります。その法則に従うのであれば、いわれのない空想や幻想を経営に持ち込むことはせずに、社会の環境に適応できるよう広い視野を持ちながらも、目の前の業務をコツコツとこなしていくことが、生存競争に勝つための最も確実な方法ということになるのではないでしょうか。 企業は、社会に必要とされ、また環境に適応してこそ存在し続けることができます。未来を見据えて日々の取り組みに改善を加え、延々と進化し続けてこそ、未来に存在する企業となれるのだと思います。「種の起源」(上・下/ダーウィン著・八杉隆一訳 岩波文庫)は、経営者の方はもちろんですが、日々新しい価値を生み出すことを職業とするクリエイターの皆さまにも是非お読みいただきたい名著です。 (当記事執筆者:辻中 玲) 種の起原 上(岩波文庫) Amazonで見る 種の起原 下(岩波文庫) Amazonで見る ビジネスの決断を助ける「易」という哲学について ビジネスの意思決定を支えるアリストテレスの哲学「ニコマコス倫理学」の要約

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