ビジネスでの価値創造を支える「美学」という哲学について

美学」とは美の本質・原理などを研究する学問で、18世紀に成立したとされる哲学の一分野です。「美学」の創始者であるドイツの哲学者アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン(1714〜1762)の代表的著書「美学(AESTHETICA)」を題材に「美」を生み出すための原則について解説していきます。「美学」は何が「美しく」何が「醜い」のかを明らかにし、どのような方法を取れば「美しい」ものを生み出すことができるのか、また「醜い」ものを生み出さないようにするには、どのような点に注意を払えば良いのかを哲学的に明らかにしています。
「美学」への理解を深めることが価値創造に従事するビジネスパーソンの皆様の活動の支えとなることは間違いありません。

「美学」では「美」と「醜」を以下のように定義しています。

  • 「美」は豊かで正確、明瞭で穏和、謙虚(感性的認識における完全性)
  • 「醜」は粗野で無知、低俗で怠惰、偽り(感性的認識における不完全性)

「美」には下記のような原則があります。

  • 美の本質は感性的明証性(感性に明瞭に働きかけるもの)
  • 美の目的は美的説得性(真の明証と偽への指摘)
  • 美の役割は神託の模倣(自然的諸規則の追求)
  • 美が示すことができるのは「真実らしさ(偽が見られない状態)」
  • 美は効用から切り離せない(有用でなければならない)
  • 美は適切な題材選択を要する(自らが卓越する分野を知る)
  • 美の源泉は美しい教養と経験

「美学」には多くの神話や古典が題材として引用されています。古代ローマ時代の南イタリアの詩人ホラーティウス、共和政ローマ末期の政治家・哲学者であるキケロー、ラテン語詩人のウェルギリウスの作品などが多く引用されており、その中には、神と人間との関係における記述も多く見られます。

  • 良き祈願と言葉が吉兆を決める
  • 幸運は勇気ある者を助ける
  • 人間的なものは神的なものの下に置かなければならない(自然の摂理に従順でなければならない)
  • 険しい状況にあっては平静な心を保ち、順境にあっては過度の喜びを自制した心を保つ(上記の項目は、ホラーティウスカルミナ」より)
  • 論理的思考と美的思考に共通するのは「徳(物を求めることの限度と節度を知ること)」である(キケロー義務について」より)

マルクス・トゥッリウス・キケロ胸像

1560年発刊の『義務について』キケロ

Opera omnia(『マルクス・トゥッリウス・キケロの現存する全作品』)1566年

クィントゥス・ホラティウス・フラックス

クィントゥス・ホラティウス・フラックス「風刺詩・書簡詩」1577年

ウェルギリウスの「アエネーイス」の主人公アエネーアースの「敬虔さ(ピエタース)」を表現する西暦紀元1世紀のテラコッタ。アエネーアースは老父を担ぎ、幼い息子の手を引いている。

バウムガルテンは作品の質は美的質をどのくらい持つかで判定されるとしています。最後に、美的な量を図るための基準をいくつか紹介します。以下のポイントを押さえながら制作することは活動する上でのガイドラインとして有効かと思われます。

さてバウムガルテンは、知性的なものは「論理学」の、感性的なものは「美学」の対象であり、論理学は美学の姉であると位置付けています。これは言い換えると表面上の表現以前に論理的な裏打ちがなければ優れたデザインは成立しないことを意味しています。知性と感性に働きかけることができてはじめて作品が説得力を持つため、美学への理解は制作者にとって作品の質を上げる有力な手段になります。また「美」の原点は自然の摂理にあることから感性を磨くためには日頃から自然の恵みを感じる(例えば観光や旬を感じる食などに触れる)ことが重要と言えそうです。

様々な立場で価値創造活動に従事するビジネスパーソンの皆様も「美」の基準を明確に知ることができる「美学」を手に取ってみてはいかがでしょうか。より詳しく知りたい方には「美学」について詳細に解説した「美学」(アレクサンダー・ゴットリープ・バウムガルテン 著・講談社学術文庫 刊)という書籍をおすすめします。書籍の詳細は下記の表紙画像をクリックしてご覧いただけます。

(当記事執筆者:辻中 玲

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